Vision

Plausible Embodiment

「もしこの身体を持っていたら、きっとこう感じ、こう動くだろう」

バーチャルリアリティの技術は、ヒトの感覚運動の入出力をシミュレートし、仮想環境とのインタラクションを実質的に再現することを目指してきました。ユーザーの運動はセンサを通じてトラッキングされ、それがアバターの身体において実行され、アバターが受け取るべき触覚や視覚がディスプレイを通じてユーザーに伝えられます。

これはユーザーがヒト型のアバターを使う場合には上手く成立します。しかし、非ヒト型のアバターの場合は破綻します。例えば、我々ヒトはタコの身体に生きたことがないため、タコの身体がどのように働くべきか、どのように感じるべきかを知りません。蛇はピット器官で熱を感じ取りますが、蛇アバターのユーザーにはそれを視覚として与えるべきでしょうか、それとも熱として与えるべきでしょうか? 非ヒト型身体の「本物の」感覚運動は我々人間が知る手段がなく、再現すべき正解が存在しないのです。

Realism Paradigm vs Non-Human Avatars

よって、非ヒト型アバターを身体として扱うためには、現実の感覚運動の再現ではなく、ヒトと非ヒト間で操作と感覚を調停するデザインが必要になります。

フレームワーク:期待に基づくデザイン

私は、このデザインの原理としてPlausible Embodimentを提案しています。Plausible Embodimentとは、非ヒト型アバター身体における操作と感覚の構成が、ユーザーによってその身体にふさわしいものとして受け入れられ、そのアバターを自分の身体として使う際に頼りにできる状態を指します。簡潔に言えば、「もしこの身体を持っていたら、きっとこう感じ、こう動くだろう」と感じられる体験を設計することが目標です。

このフレームワークでは、ユーザーがアバター身体に対して抱く種々の期待――身体認知、ステレオタイプ、知覚されるアフォーダンス――をデザインリソースとして活用します。例えば、尻尾の位置感覚を伝えるには、振動や視覚呈示よりも、腰付近への皮膚伸長フィードバックの方が深い没入感を生み出します。この差を生むのは「その身体ではその感覚はこう感じられるはずだ」というユーザーの期待です。

Plausible Embodiment Framework

3つの研究

これまでに、操作・感覚・社会的実践の3つのレイヤーから、Plausible Embodimentに関するデザイン上の知見を得てきました。

Plausible Control: Embodied Tentacle

タコ型の仮想腕に対する異なるマッピングがユーザー体験にどのように影響するかを調査しました。12セグメントのタコ型仮想腕を構築し、右手の12の指関節に一対一でマッピングする4種類の条件を比較した結果、ユーザーのアバター身体に対する認知的解釈に沿ったマッピングがもっとも理解しやすく、もっともらしい操作体験を生むことが明らかになりました。例えば、小指を「手の先端」と認識するユーザーにとっては、小指がタコ腕の先端に対応するマッピングがより直感的でした。

Embodied Tentacle

Plausible Sensation: Imaginary Joint

ユーザーの生来の身体と仮想の身体拡張(尻尾など)の境界を「仮想的な関節」として再定義し、その関節周囲の皮膚伸長によって固有受容感覚フィードバックを与える手法を提案しました。21名の実験で皮膚伸長と振動を比較した結果、皮膚伸長はより正確な知覚と高い身体所有感をもたらしました。参加者からは「振動はただの信号だが、皮膚伸長は自分の身体の一部のように感じる」「もし尻尾があったら、まさにこう感じるだろう」というコメントが得られ、皮膚伸長がPlausible Embodimentをより効果的に支援することが示されました。

Imaginary Joint

Practices of Plausibility: Escape From Human

日本のVRChatコミュニティにおける非ヒト型アバターユーザーへのインタビュー研究を行いました。ケンタウロス、ラミア、多腕生物、動物型アバターなどを用いるユーザーは、単にアバター身体を感じたいだけではなく、その身体らしい方法で感じ、操作することを望んでいることが明らかになりました。また、現実の身体的コミュニケーションをそのまま再現できない非ヒト型身体においては、身体形態に対するユーザー間の共通理解に基づいて新たな身体的コミュニケーションが自発的に生み出されていることも明らかになりました。

Non-Human Avatars in Social VR

今後の展望

今後は、操作・感覚・コミュニケーションそれぞれにおけるplausibilityの要件と多様性をさらに精緻化し、追加のレイヤーも探求していきます。また、ユーザーの事前期待を測定・形成する方法についても調査を進めていきます。キャラクターの物語や特性を事前に確立することで、ユーザーに新たな能力を「インストール」し、それらの能力がどのように感じられ、機能するかへの期待を形成することができるかもしれません。

Plausible Embodimentは、再現すべきゴールドスタンダードが存在しない非ヒト型アバター体験において、それでもユーザーの期待を基に、尤もらしい体験を作り出すためのフレームワークです。この研究を通じて、私は「非人間的存在に宿る人間の能力」の限界を探求し、拡張することを目指します。

さらに、ヒト-非ヒトで環世界が異なることに関連して、ヒト同士においても同じ外部刺激への知覚の仕方は多様です。例えば、AさんとBさんは同じ「赤色」を経験しているとは限りません。その多様さを理解し、個々人間の差を技術で調停していくことにも、この研究を役立てたく思います。

これまでの内容にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。共同研究のお誘い・インターンのご応募を歓迎しています。

東京大学 稲見研究室 博士二年 高下修聡 
@shike_cosmicXR
shuto.takashita@star.rcast.u-tokyo.ac.jp