Vision

ビジョン : 多元身体性社会

「多様な人々が、好みや時と場合に応じて複数の身体性を操り、また自ら適応的に作り変えていく社会」

私は、人が必要に応じて複数の身体性を選び取り、さらに自分で調整できる社会を目指しています。身体的・心理的な制約を減らし、誰もが場⾯に合わせて最適な身体性を選択できることで、世界に生きる人々の姿はより多様になります。

たとえば普段の買い物や散歩ではサブアームで荷重を分散する。働くときには、蛇型ロボットに没入して地下を探索する。帰宅後はメタバースでドラゴンになって遊び、犬型アバターで肩の力を抜いて友人と過ごす――。メタモンのように、身体を次から次へと変身させる。そんな「身体の着せ替え」が当たり前になる日常を描いています。

Vision Illustration

ヒトの身体の可塑性を追求する

非ヒト型アバターには大きく 非相同性(人と形が共通しない度合い)と 拡張性(自由度・器官数の増加)の 2 軸があります。それぞれが次のような課題を生みます。

Avatar Illustration

形の課題では、元の身体から再構成された身体までの認知的距離を縮めるマッピングが鍵になります。数の課題では、情報の重畳提示や冗長自由度の再利用が重要です。

私はこれらを (形 , 数) × (操作 , フィードバック) の 4 領域に整理しました。修士課程では 形 × 操作 の問題に対して取り組みました。今後は残る 3 領域のそれぞれを取り組みつつ、それらから得られた知見を統合して「拡張かつ非相同な身体を自分の体として扱うための変身論」をまとめることを博士課程での目標にしています。また、サイバネティックス的な要素のみならず、文化的な「変身」の意義も踏まえて議論を進めていきます。

Four Main Challenges

非ヒト型身体で拡張する能力と心

加えて、これらの身体がもたらす身体能力の拡張・心理的拡張についても検討を行っています。

物理的拡張:タコ腕や蛇型ロボットで狭い空間を探索する、無重力に適応した多脚スーツで宇宙作業を効率化するなど、身体の形状を変えることで活動領域を広げることを将来的に目指しています。

心理的拡張:恐怖症の軽減、動物への共感、自己イメージの再構築といったメンタル面での変化も期待できます。

この分野は注目され始めたばかりであり、その応用とそれが発生する機序・理論の両方において開拓の余地が大きく残っています。

課題をメタバースの実践から学ぶ

私の興味はメタバース上のアバター文化に根差しており、それをアカデミックな文脈と接続することによってその文化に貢献したいと考えています。2018年にVRChatに飛び込んで以降、バーチャル世界における拡張された身体表現に魅せられ続けてきました。人が尻尾を持ち、けも耳を動かし、火を吐き、そのような拡張されたチャンネルで、新たな形で他人とのコミュニケーションや自己表現を行う。この新たな文化の楽しみを現実とバーチャルの壁を超えて布教し、それの幅を広げていきたいと考えています。

ところで、上のセクションで書いたような課題の一部は、メタバース上のユーザーがまさに直面している課題でもあります。そのようなアバターを着ている人へもニーズや課題などを伺いつつ、研究を進めています。

Adaptive Embodiment ― ユーザー自身による身体編集

ギリシャ神話のプロテウスは、メネラオスからの逃走劇の中で、状況に合わせて自在に姿を変えました。こうした状況適応的な変身に加え、ユーザーの嗜好や身体特性に応じても操作対象の身体性を柔軟に書き換えられれば、さらに新たな身体の適応の幅が広がります。身体構造や操作方法をユーザーが簡便に編集できる仕組みを備えることで、利用シーン・個人の好み・身体特性の多様性を幅広く支援できます。私は、こうした自己編集と身体間遷移の可能性についても研究を進めています。

これまでに2 つのユーザー自身による身体編集のデモと、身体間の変身を扱う作品を複数制作しました。こうした体験を通して実証しつつある「自分で身体を変えることの楽しさと有用性」を、誰もが享受できるプラットフォームへと昇華させたいと考えています。つまり、誰もが簡単に自分で身体を編集でき、またそれをシェアし、自分の好みの形に再編集できるような、user-generatedな身体性の未来を描いています。

Self Body Edit Demos

これまでの内容にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。共同研究のお誘い・インターンのご応募を歓迎しています。

東京大学 稲見研究室 博士二年 高下修聡 
@shike_cosmicXR
shuto.takashita@star.rcast.u-tokyo.ac.jp